幻の葛尾村になる前に(第一部了)

葛尾村には水量豊かな川が流れている。野川は葛尾川に合流して高瀬川渓谷となり太平洋に注ぐ。高瀬川渓谷はどこか、かつて家族と訪れたことのある奥入瀬渓谷の趣があった。渓流に取り残された流木に腰掛けて、少しだけ両手に水をすくい飲んだことを思い出す。松本操さんは、この流れのとことどころにある毎年写真をという絶景ポイントに誘ってくれた。沢に降りて川上を見ると羽が灰色の鷺が川に覆い被さるように張り出した樹木の下で静かに羽を休めていた。操さんは、昔は青鷺なんか見なかったんだけどな、地球温暖化のせいかねなどとと教えてくれる。この川を子どもたちがはしゃぎながら走り回る日は来ないかも知れない。操さんは何より子どもたちをこの渓流に誘い、川をせき止めヤマメやニジマスを放流して手づかみでつかませる夏遊びをもう一度やりたいという望みをもっている。清流のように見えても水は放射能で汚染されていてしばし恐怖を感じる。住宅まわりを熱心に除染しても、川そのものを除染したという話は聞いたことがない。こんな川に誰がしたのか。水は命の根源だ。原発事故はこの村人の命の根源を汚染した。そんな村に政府は帰還せよと村人に迫ろうとしている。自分をPRするために被災地を訪問するだけではなく、政府も官僚も東電役員も旧役員も逃げてばかりいないで一年でも住んでみたらどうか?当事者能力のない原子力村の村民が葛尾を廃村へと強制移住させようとしていることを忘れてはならない。

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村人がいなくなっても川は流れ続ける。この川のせせらぎに村人が集い子どもたちがはしゃぎ回る姿を思い浮かべながら第一部を終えたいと思う。

第二部は近々再開したいと考えているが、葛尾村の伝統や生活を村のおじいちゃんおばあちゃんに語ってもらい、身を引き裂かれながら村を離れる人びとの心の置き所になるような書ができればと考えている。もし可能であれば、「葛尾村聞き語り」シリーズのように編集して、何か面白いものがあれば、美大の学生さんたちと一緒に紙芝居にでもしたてて残せたらと思う。このブログをご覧下さっている方、どうかアイデアをお寄せ下さい。筆者は、来年2月に福島出身の何人かの学生さんたちと聞き語りの収録にお邪魔できればと夢見ています。何しろ、おじいちゃんおばあちゃんの語る福島弁は若い福島人にも分からないかも知れないからで、筆者は若者の通訳が必要としているからだ。