幻の葛尾村になる前に 第三部 −3「田んぼの土」

田畑の美しい風景はお百姓さんたちの何十年何百年かけた血と汗の涙の結晶なのです。操さんの田んぼは除染業者によって表土が5cm削られたので、当然稲作にはその分の土をどこからか供給して補わなければなりません。操さんはその土を山の土に求めて田んぼに入れたそうです。そして平らにならして水を入れたところ、何と川上にある田んぼの上の方に水がたまり下の方へと水が流れず田んぼの高低が逆になったそうです。そこで下の土を一生懸命上に入れ替えて微妙な高低をつけるところから再スタートしたと言います。つまり除染業者の表土はぎ取りはなだらかな高低差をそのままうまく整地できなかったと言うことでしょう。残った元の土と新たな山の土をすき込んで田植えに適した土に変えていったということです。何年か前に仙台市津波に襲われた田んぼの土おこしのお手伝いを学生さんとしたときに、土の中のがれきを取るだけでなく、塩分を取り除くだけでなく、土を日光に当ててやらなければならないということを知りました。日に当たっていない山の土は、田んぼの土としてできあがるまでに何十年もかかると聞きました。「美しい日本をつくる」と政治家はなにもせず自慢げに言いますが、田んぼだけでなく、日本中美しい風景は、民衆の何代にもわたる丹精と、その間に流された血と汗の涙の結晶なのです。谷間に吹き渡る風と流れる水がそう伝えてくれました。

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