幻の葛尾村になる前に(6)きっかけは「三春支援プロジェクト」

葛尾村に関わるようになったきっかけは、web上で春休みのボランティア先を探しているときに、たまたまamebaブログ「福島の現実-福岡百子の声」を目にしたからだ。そのブログの中で福島さんは「第2原発をかかえる富岡町の方々が避難している仮設住宅で、必要とされる生活支援物資の支給が途絶えたので提供して欲しい」という呼びかけをしていた。

これに呼応して今年2月にFBグループ「三春支援プロジェクト」を立ち上げる。冒頭に

「「三春支援プロジェクト」のスタートです。

これからみなさんに支援物資等の送付をお願いするのは、福島第2原発のある福島県富岡町から避難された方々に向けてです。富岡町は地震津波で家屋を流された方が多くいらしただけでなく、福島第一原発の事故の影響で、帰還困難区域、居住制限区域、帰宅準備区域に指定され故郷を追われています。現在は福島県田村郡三春町に6カ所に分かれて設置された仮設住宅にお暮らしです。ここには290世帯が住み、6つの自治会があります。その中の自治会長のお一人が高橋実さんです。

紹介者の福岡百子さんとも、高橋実さんとも電話でお話いただき、震災から3年近く経って、全国からの生活支援物資が届かなくなり、町役場からの支援物資さえ途絶えたということです。生活物資不足のまま苦労されている方が多いということなので、みなさんに支援を呼びかけました。」

と初めてのメッセージを書いた。

福島百子さんと高橋実さんとも電話でお話をいただき、福島第一原発の事故から3年が過ぎようとしているのに、今なお支援を必要とされている方がたくさんいらっしゃることに驚き、何かできることはないかと考えた。この「三春支援プロジェクト」は富岡町の方々に支援物資を届けることが目的で、FBで呼びかけたところ瞬く間に、友人知人教え子など50人以上の支援者が賛同してくれた。後に賛同して下さった方々にその思いをうかがったところ、「自宅に使わないものがあったら新品でなくても受け入れてくれる」、「支援物資の届け先が分かっているので安心だ」と話してくれた。困った人がいれば手をさしのべてみたいという方がまだ全国にはたくさんいる。しかし、事故後全国規模で何百億もの義援金が集まって、それが実際に被災者に届けられたのかどうかも、どのように分配されたのかも、何に使われたのかも分からないまま時が過ぎていった。現実には、仮設住宅の備品や家電製品の供与に使われたようであるが、現金は一円も届けられなかったと聞く。無償の行為であったも、届かなかったかも知れないと思えばどこか裏切られた感情が残り、いつしか人びとの心の中から義援金を誰かに託したいという思いが消えていったのではないか。

賛同者のみなさんから、次々に高橋実さんの元に支援物資が届き始めた。筆者のところにも郵送で物資が届き、教え子は紙袋に詰めた衣類を手渡ししてくれたり、何人かの方は福島に向かうことがあれば途中で寄って欲しいと連絡をいただいたので預かりに行って、3月末に支援物資を車に満載して全てを高橋実さんの元にお届けした。このようにして「三春支援プロジェクト」がスタートした。

その一方で、福島百子さんから電話で直接依頼されたのが、葛尾村の村おこしのプロジェクトである。葛尾村という名前は初めて聞いた。メディアでも聞いたことがなかった。ところで福島百子さんから依頼されたのは「葛尾村の住民は全村避難で現在村には一人も住んでいない」、「除染は少しずつ進んではいるが、いつか村人が帰村するときに帰るきっかけとなるようなアイデアをほしがっている人がいる」、「杉村さんには富岡町と葛尾村の二つに関わってもらいたい」と切り出してきたのである。村の名前も、位置も、何が起きてどのような避難生活を送られているのかもわからないまま引き受けることとなった。しからばとその方にお電話を差し上げた。いきなりの電話であったが、いろいろ村のお話をうかがっている間に、数々の疑問がわいてきたので、これは直接会ってじっくりとお話をうかがうしかないと感じたので、3月末に富岡町の仮設住宅に支援物資を届けるついでに、その翌日お会いしたいと申し出て、それが実現した。斎藤里内の仮設住宅で自治会長をされている松本操さんである。

三春町には、富岡町の仮設住宅葛尾村仮設住宅が点在している。富岡町の仮設は元の町の地区ごとの避難ではなく様々な地区の人が寄り添うように暮らしている。それに対して葛尾村仮設住宅は村内の地区ごとにまとまって建設されたのでいわばご近所づきあいがそのまま続いている。いずれにしても仮設住宅はおおむね人里離れたところに建設されているので、無料バスのサービスはあっても、買い物や病院など、生活は不便である。地面に杭の上に住宅が建てられており、3年を経過して、湿気で材木が傷み始めていたり、雨漏りがする住宅もあるとのこと。

朝から自治会の会議が開かれるなどお忙しい中会って下さった。お宅に招かれた。狭く感じられる居間のコタツの中で避難の様子や生活の様子をいろいろとお聞きしている中で、件の村おこしについてたずねてみた。松本さんはやお松本さんはくるくると丸めた3枚の模造紙を持って来てコタツの天板の上に拡げた。