幻の葛尾村になる前に(1)葛尾村は双葉郡のへそ

葛尾村は北部と東部を浪江町に隣接、南部を田村市に、西部を川俣村に隣接した寒村である。標高は450mで阿武隈高原の一角をなす。村に入る街道は二つあり、田村市船引(ふねひき)から東に向かい峠を越えるルートと同じ田村市都路地区から北上して入るルートがある。船引からのルートを東にゆるやかに上り詰めると峠となりここが葛尾村の入り口となる。峠を下ると細長い沢地の両側に緑豊かな田畑が広がり右手には穏やかな稜線が広い空を支えている。沢は野川と呼ばれやがて落合地区から葛尾川に合流しさらに下って高瀬川渓谷のせせらぎとなり、遠く浪江町から太平洋へと流れ出す。太平洋に面した浪江町双葉町が南接し、双葉町から南下するとほどなく大熊町に入り東京電力福島第一原発がグロテスクな残骸をさらしている。この福島第一原発から葛尾村の中心である落合地区まではおおよそ25kmほども離れているだろうか、葛尾村全域に死の放射性物質セシウムが降り注いだ。北接する浪江町のさらに北部にある飯舘村は福島第一から45km以上離れており、この地図を見るだけでどれほど広範囲に放射性物質が降り注いだかが実感できる。

それにもかかわらず、危機意識ゼロの伊藤鹿児島県知事は、川内原発の再稼働問題で、要援護者の居住する10km以上30km未満の地域を「現実的ではない」と避難民を置き去りにする計画を発表してその無知と冷血ぶりをさらけだした。下の帰還困難区域の北限をみてほしい。目測でしかないが、福島第一から直線距離で40km以上ある。

つまり川内原発はこの現実を避難計画に生かさなければならないのだ。「想定外」という言葉を聞くたびに「この人たちは何て無責任なんだろう」と憤慨したが、この地図が想定の最低ラインでなければならない。

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葛尾村の避難区域は北東部の帰還困難区域と、それに隣接する北部と東部に一カ所ずつ居住制限区域がある。帰還困難区域は放射線年間積算線量が50ミリシーベルトを超え5年間を経過しても20ミリシーベルトを下回らない恐れのある地域。居住制限区域は放射線年間積算線量が20ミリシーベルトを超える恐れがあり、引き続き避難の継続を求める地域である。避難指示解除準備区域は、放射線年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された区域である。ご覧の通り、葛尾村は全域がこの3つの区域のどこかに当てはまっているので全村避難となった。村人数はおよそ1600人でそのほとんどが近隣の三春町に避難している。そのうち半分近くが10カ所の応急仮設住宅に分かれて暮らし、残りの方のほとんどが同じ三春町の借り上げ住宅に暮らしているという。葛尾村の応急仮設住宅は10カ所ありそのそれぞれの住宅には葛尾村村内の同じ地区の人が集まって暮らしているので、ご近所づきあいが継続されているようだ。

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